売上単価が高い営業マンの思考法 〜バリューを付加する営業スキル〜

Golden Circle

この記事で分かること

✔ 顧客にとっての”バリュー”とは

✔ 潜在ニーズを捉えるフレームワーク

✔ バリューベース営業とはなにか

 

3年連続営業成績トップである筆者が、詳しくお伝えします。

優秀な営業マンの習慣 〜バリューベース営業〜

よい営業を行うための条件

アカウントマネージャー1

世の中には「営業職」というと、いいイメージを持たない人が多いと感じます。

セールスマン
セールスマン
Aさんでしょうか!私○○商事の営業です。
急なご連絡申し訳ありません。
実は、△という新商品をAさんにご紹介したく連絡しました。
Aさん
Aさん
はい・・・
(あ、またセールス電話だ。迷惑だわ。)

テレアポは、かなり生産性が低い手段です。

正しい見込み顧客」にコンタクトできる確率が低いからです。

しかし、摩訶不思議、今でも多くの会社が実施している営業手法です。

 

同時に、電話を受けた人の多くは、テレフォンアポイントの提案内容に興味がありません

興味がない受電者は、時間が奪われるだけでいい迷惑です。

その会社に対して印象が悪くなるだけです。

 

効率がよく、印象が良い営業活動とは、「正しい見込み顧客」へ適切な提案を行うことです。

そのためには、マス向けマーケティングを機能させ、インサイドセールスで「正しい見込み顧客」をフィルタし、営業活動とは分離すべきです。

 

営業とは、商材に「価値」を加える職業である

営業には3つのタイプがあります。

 

3つの営業タイプ

✔ 販売営業:顧客が求める商材を販売する
✔ ソリューション営業:商材に加えて、ソフトウェアやサービスプランを加えて販売する
✔ バリューベース営業:顧客の隠されたニーズをすべて把握し、商材やソリューションを販売する

 

販売営業とは、顧客からの要求に応じ、商材を販売するものです。

営業の役回りとしては、御用伺いの後、顧客の発注プロセスを調整し、納品までを手掛けます。

顧客が対価として支払うものは、「商材の売価+納品までの手数料」という形になります。

手数料は事務手続きになりますので、特殊な手続きが発生しない限り、金額は小さくなります。

販売営業

(売上)= 商材の売価 + 納品までの事務手数料
→ 事務手続きが特殊でない限り、売上単価は小さい

 

次に、ソリューション営業とは、商材に加えて、自社独自のソリューション(例:ソフトウェア、自社独自のサービスプラン)を加えて、販売を行うというものです。

ソリューションは、自社で開発したものになり、独自のバリューが付加されます。

営業の役回りとしては、顧客のニーズを聞き出し、自社が提供するソリューションが顧客のニーズを満たすか確認し、提案することです。

顧客が対価として支払うものは、「商材の売価+自社独自のソリューション+納品までの手数料」という形になります。

先程の販売営業と比べ、ソリューションの価値が付加されたので、売上単価は上がってきます。

ソリューション営業

(売上)= 商材の売価 + 自社独自のソリューション + 納品までの事務手数料
→ ソリューションの価値が付加され、売上単価が大きくなる

よく日本においては、「モノ売り」から「コト売り」へ、あるいは「提案型営業」への転換が重視されています。

 

しかしながら、欧米では提案型営業を更に昇華させた、「Value-Based Selling」が主流になりつつあります。

 

バリューベース営業とはなにか?

今回取り上げるのは、「Value-Based Selling」です。

適切な日本語訳は存在してないようなので、バリューベース営業と呼ばせていただきます。

顧客は「価値」に対価を支払う

顧客はどういうときに、「ものを買う」のでしょうか?

答えとしては、「相応の価値を感じるとき」となります。

非常に高価なものであっても、それに見合う価値があれば、顧客は費用を支払うのです。

価値に共感した顧客

価値とは何か

商材の「価値」とはなにか?

それは、商品自体の魅力だけではありません。

 

つまり、購入した商品を、どう使うのか?何を実現したいのか?

「なりたい姿になれること」こそが、顧客にとっての「真の価値」なのです。

VBS2

顧客が価値を見出す部分

もしかすると、営業マンの中には、売上が立つことを「ゴール」と捉えているのではないかと思います。

しかしながら、それは購入した顧客にとってはスタートラインになります。

 

下図において、顧客が商材に価値を見出す部分は、Post-Salesの緑破線で囲われた部分です。

つまり、商材を使用することによって、もたらす効果、そして使用することで実現される姿、に価値を見出すことになります。

VBS3

「顧客が価値を見出す」部分に訴求することが、バリューベース営業の基本

顧客は、価値に対する対価として、お金を支払います。

逆に言えば、価値が高いと理解されれば、相応の費用を支払います。

すなわち、営業マンは、顧客が感じる「価値」を正確に理解し、提案を行うことができれば、顧客は十分な費用を支払うことに同意するでしょう。

 

VBS4

顧客のニーズの捉え方

顕在ニーズ と 潜在ニーズ

「価値」または「バリュー」について述べてまいりました。

本章では、営業目線に立ってお話するため、価値を「ニーズ」という言葉に置き換えて話を進めます。

 

営業マンが顧客を見た時に、顧客がはっきりと認識し、かつ明文化できるニーズを「顕在ニーズ」、顧客の認識が不明瞭もしくは認知していない隠れたニーズを「潜在ニーズ」と呼びます。

顕在ニーズと潜在ニーズの違いを、しばしば「氷山」に例えることがあります。

 

VBS5

「氷山の一角」という言葉があるように、海面に顔を出している部分はごく一部です。

営業の場面においても、商談の場で見えている顧客のニーズは、ごく一部である可能性が高いです。

 

顧客ニーズの全体像が読み取れない理由

✔ 顧客がニーズの背景を話していない(商談の場で話す必要がないと思っている)
✔ 顧客自体がニーズの存在を自覚していない(潜在ニーズ)

 

ただし、潜在ニーズを具体的に捉えることは非常に難しく、少しテクニカルな営業手法を学び、経験を積む必要があります。

ゴールデンサークルで深堀りする

ゴールデン・サークルは有名な概念でありますが、念の為解説します。

ゴールデン・サークルとは、サイモン・シネックが提唱するリーダシップ手法の一種です。

Golden Circle

ゴールデン・サークル

✔ What:なにをするのか?・・・具体的なアクションアイテム
✔ How:どのようにするのか?・・・実現するための方法論や方向性
✔ Why:なぜするのか?・・・やらなければいけない理由や理念

 

偉大な経営者が、従業員を動かすとき、「Why?」でその必要性を説き、「How」と「What」の順で説明しているという、経験則を理論に落とし込んだものが、ゴールデンサークルです。

そして、サイモン・シネックは「Whyからはじめよ」と口癖のようにいっており、Whyの重要性を強調しています。

 

この考え方は、欧米では早くも営業手法に普及しており、「Why」が最も重要な部分となります。

つまり、顧客のニーズを正確に捉えるために、「Why」の質問で掘り下げていくことが重要です。

前提となる「顧客の信頼」

一方で、何もなく顧客に「Why?」を聞いていっても、相手にしてもらえないでしょう。

Credibility Building

営業マンと顧客の間に、「信頼」がないと情報の深堀りは難しいです。

信頼とは、「きっとこの話は私にとってメリットがあるだろう」「この営業はバリューを提示してくれる」という期待感です。

それがなければ、ただ単に、「迷惑な営業マン」に過ぎないでしょう。

重要なのは、「信頼の構築」(英語では、Credibility Building と言われる)がすべての営業活動の礎になります。

 

過去に良い実績があり、顧客の信頼を得ている場合

過去に顧客に良い実績を与えている場合、既に顧客の信頼を勝ち得ているため、すぐに本題に入ることができます。

CB2

また、前回の商談で購入に至らなかった場合でも、提案内容が優れていた場合、既に顧客の信頼を勝ち得ていることもあります。

顧客への深い洞察(インサイト)をベースに、顧客の信頼を得る場合

初回顧客の場合でも、顧客自身あるいは取り巻く環境を理解しておれば、顧客の信頼を勝ち得ることも可能です。

例えば、顧客の職種、所属企業あるいは市場動向などへ、深い知識とインサイトを持った営業は、初対面でも深い議論を行うことができます。

議論の中で、顧客が潜在的に有する課題やニーズを拾い、有効なアプローチ策や事例を紹介することができれば、顧客は営業を信頼します。

CB3

このタイプの「信頼構築」ができる営業マンは、2通りあります。

 

(1)業界経験が豊富な営業マン
・・・担当する顧客が属する業界を長年担当している営業マン。積み重ねた知識とともに、過去の業界の変遷も理解している。
もしくは、もともと顧客側にいた営業マン。もともとユーザとしての経験があり、課題や困りごとを熟知している。

 

(2)入念な事前の情報収集及び仮説思考の営業マン
・・・初回コンタクトする顧客の背景や業界情報を入念に調べ、情報を元に顧客課題を類推し、顧客が置かれている状況の仮説をたてる。
情報入手元は、会社Web情報、同業他社を担当する同僚、あるいは、同様の背景を持った顧客の課題や困りごとなどがある。

 

「(1)業界経験が豊富な営業マン」は、ベテラン営業に多いタイプです。

逆に言うと、10年以上の長きに渡って営業経験した人しか行き着けないでしょう。

 

なので、年次の若い方は「(2)入念な事前の情報収集&仮説思考の営業マン」への取り組みを推奨します。

情報を事前に収集し、そして同様の案件実績を社内で探し、「サクセスストーリー」を入手します。

同時に、顧客課題を類推し、顧客がいま置かれているであろう状況の仮設を立てます。

 

(2)については、習慣化することをおすすめします。

繰り返していると、段々と顧客パターンが読めてきて、仮説が大きく外れることは少なってくることでしょう。

顧客に気づきを与える質問話法「SPINセールス」

SPIN話法については、歴史が古いので、営業の方もよくご存じの方もいらっしゃるかと思います。

 

SPINの質問話法

1.状況質問(Situation Questions)
→顧客が置かれている状況や環境について、客観的事実を確認する質問。意図としては、顧客のニーズを明確にするための糸口を発見すること。
2.問題質問(Problem Questions)
→顧客の持つ課題や障害、不満について聞く質問。意図としては、顧客が気づいていない潜在的な問題を自覚させ、それを明らかにすること。
3.示唆質問(Implication Questions)
→顧客が深刻さを感じていない問題がもたらす多方面への悪影響の可能性を聞く質問。意図としては、課題の深刻さを正しく自覚させ、潜在的な課題を顕在化させること。
4.解決質問(Need-payoff Quesitions)
→顧客が、気づいた問題を解決したいときの「望ましい姿」についての質問。意図としては、顧客が問題解決への願望・欲求を高めさせること。

特徴としては、「S」の質問は、Close Questionでも構いませんが、その他はOpen Questionを心がけることです。

意識として顧客にドンドン喋らせること、が重要です。

 

特に重要とされているのは「I」の質問、示唆質問 です。

示唆質問は、相手の潜在的なニーズや課題を呼び起こして、顕在化させることが目的です。

顧客自身の口から課題を話すため、顧客自体が潜在的なニーズを強く認識する効果があるとされます。

 

示唆質問の例

例:□□の歩留まりが悪いが、顧客がいまいち深刻さを認識していない場合

「お話では、□□の歩留まりが悪いとちょっとしたロスが出るようですが、年間で考えた時にロスの量はどれくらいになりますか?」
「□□の歩留まりを大きく改善した場合、材料費はどれくらい圧縮効果が見込まれますか?」
「材料費が圧縮された場合、どのような投資に回したいですか?」
「このままで行くと、将来はどうなりますか?」

 

「課題(P)」ー「方向性(D)」ー「解決策(M)」への共通認識の形成

私の会社では、「PDM」というフレームワークで顧客課題の顕在化と共通認識の形成を行います。

 

・P:Problem

・D:Direction

・M:Methodology

 

このPDMのフレームワークを、顧客との打ち合わせ前、および、打ち合わせ後に作成します。

 

打ち合わせ前のPDMは、仮説ベースPDM となります。

Pについては、前項「顧客への深い洞察(インサイト)をベースに、顧客の信頼を得る場合」>>「(2)入念な事前の情報収集&仮説思考の営業マン」 の内容を実施します。

それに対する解決の方向性(D)と解決策(M)を複数通り検討します。

 

打ち合わせ後のPDMは、事実ベースPDM となります。

打ち合わせ内で収集した情報をもとに、Pをとらえ、それに対する方向性(D)と解決策(M)を提示していきます。

なお、(D)や(M)では、競合ソリューションを含めてもよく、公平さを担保しながら、共通認識の形成を行うとベストです。

 

顧客の置かれた状況を明示する「4 x 4」マトリクス

質問術や事前準備の手法について、SPINやPDMのフレームワークをお伝えしました。

では、どういう情報が取れるとよいのか。

網羅的であるかを考える上で、4 x 4マトリクスを検討します。

現状(As Is) 障壁(Obstacles) 予想される悪い結果(Result) ありたい姿(To Be)
現場視座
ビジネス視座
社内政治視座
顧客個人視座

 

バリューベース営業では、あらゆる視座感を持って、網羅的にソリューションを提案する手法をとります。

そのため、4つの階層の視座感から、現状、課題、やらなかったらどうなるか、ありたい姿、をマッピングしていきます。

 

ただし、一人の顧客からすべてを網羅的に情報をマッピングすることが難しい場合があります。

たとえば、B2Bビジネスである場合、顧客は企業となるため、意思決定に複数の人が絡むことになります。

この場合、複数の顧客とコンタクトを取る必要があります。

 

組織の意見を多角的に読み解く「3 x 3」マトリクス

「4 x 4マトリクス」の情報マッピングをする際、複数の顧客とコンタクトをとる場合があります。

なぜならば、顧客の立場により、ニーズが異なる可能性があるためです。

 

そのため、私は最低限 3 x 3 = 9 Segmentの意見を集約するべきだと、考えています。

一例としては、以下となります。

企画 開発 調達
VPレベル
部門長
現場レベル

 

同一プロジェクトにおいても、企画する部門、開発する部門、調達する部門、それぞれで異なる目標を持っているため、立場が異なります。

そのため、生じているニーズが様々あります。

このような多種多様なニーズを取り込み、バリューを付加することができれば、顧客が真にやりたいこと(改善したいこと)の実現に近づいていきます。

そして、その対価として、営業マンは商材をアップセル(=単価向上)することができます。

 

鍵となる「選択と集中」

すべての顧客に対して、バリューベース営業を行おうとしても、工数が足りません。
そのため、一般的にはターゲット企業を絞って、実施していきます。

「8:2」の法則

ある調査機関によると、多くの企業で「8:2の法則」が成立しているといいます。

「8:2の法則」とは、自社の全売上の80%が、全顧客名簿の20%で上がっているというものです。

8:2

その一方で、全顧客名簿の80%は、自社の全売上の20%程度に過ぎません。

そのため、顧客ポートフォリオ管理上、売上上位20%にリソースを投入するほうが効率がよく、売上の伸び率も期待できるということです。

 

選択と集中に関しては、アカウントポテンシャル、SWOT分析、MAP the GAP分析 などがありますが、次回の「戦略的営業(仮題)」にてお伝えしていければと考えています。

まとめ

売上単価の高い営業手法である、「バリューベース営業」。

バリューベース営業では、顧客の潜在的なニーズを洗いざらいにして、本質的なバリューを提示するものです。

そのため、いくつかのフレームワークを駆使しながら、顧客と継続的に対話を重ねる必要があります。

 

そして、バリューベース営業は、営業だけが喜ぶ話ではなく、真の価値をもたらされた顧客も喜ぶものです。

まさしく「Win-Win」の関係構築であるため、顧客から求められる営業マンになるためには、バリューベース営業が非常に重要となります。