この記事で分かること
✔ 顧客にとっての”バリュー”とは
✔ 潜在ニーズを捉えるフレームワーク
✔ バリューベース営業とはなにか
優秀な営業マンの習慣 〜バリューベース営業〜
米系外資系企業で働くコンサルタント。専門は製造業領域。
自動車メーカーのエンジニアから、30歳で外資系コンサルティング会社へ転職。
3年連続トップ業績により、度重なるレイオフの波を乗り越える。
二児の父。せんべいが好き。
よい営業を行うための条件
世の中には「営業職」というと、いいイメージを持たない人が多いと感じます。
急なご連絡申し訳ありません。
実は、△という新商品をAさんにご紹介したく連絡しました。
(あ、またセールス電話だ。迷惑だわ。)
テレアポは、かなり生産性が低い手段です。
「正しい見込み顧客」にコンタクトできる確率が低いからです。
しかし、摩訶不思議、今でも多くの会社が実施している営業手法です。
同時に、電話を受けた人の多くは、テレフォンアポイントの提案内容に興味がありません。
興味がない受電者は、時間が奪われるだけでいい迷惑です。
その会社に対して印象が悪くなるだけです。
効率がよく、印象が良い営業活動とは、「正しい見込み顧客」へ適切な提案を行うことです。
そのためには、マス向けマーケティングを機能させ、インサイドセールスで「正しい見込み顧客」をフィルタし、営業活動とは分離すべきです。
営業とは、商材に「価値」を加える職業である
営業には3つのタイプがあります。
販売営業とは、顧客からの要求に応じ、商材を販売するものです。
営業の役回りとしては、御用伺いの後、顧客の発注プロセスを調整し、納品までを手掛けます。
顧客が対価として支払うものは、「商材の売価+納品までの手数料」という形になります。
手数料は事務手続きになりますので、特殊な手続きが発生しない限り、金額は小さくなります。
(売上)= 商材の売価 + 納品までの事務手数料
→ 事務手続きが特殊でない限り、売上単価は小さい
次に、ソリューション営業とは、商材に加えて、自社独自のソリューション(例:ソフトウェア、自社独自のサービスプラン)を加えて、販売を行うというものです。
ソリューションは、自社で開発したものになり、独自のバリューが付加されます。
営業の役回りとしては、顧客のニーズを聞き出し、自社が提供するソリューションが顧客のニーズを満たすか確認し、提案することです。
顧客が対価として支払うものは、「商材の売価+自社独自のソリューション+納品までの手数料」という形になります。
先程の販売営業と比べ、ソリューションの価値が付加されたので、売上単価は上がってきます。
(売上)= 商材の売価 + 自社独自のソリューション + 納品までの事務手数料
→ ソリューションの価値が付加され、売上単価が大きくなる
よく日本においては、「モノ売り」から「コト売り」へ、あるいは「提案型営業」への転換が重視されています。
しかしながら、欧米では提案型営業を更に昇華させた、「Value-Based Selling」が主流になりつつあります。
バリューベース営業とはなにか?
今回取り上げるのは、「Value-Based Selling」です。
適切な日本語訳は存在してないようなので、バリューベース営業と呼ばせていただきます。
顧客は「価値」に対価を支払う
顧客はどういうときに、「ものを買う」のでしょうか?
答えとしては、「相応の価値を感じるとき」となります。
非常に高価なものであっても、それに見合う価値があれば、顧客は費用を支払うのです。
価値とは何か
商材の「価値」とはなにか?
それは、商品自体の魅力だけではありません。
つまり、購入した商品を、どう使うのか?何を実現したいのか?
「なりたい姿になれること」こそが、顧客にとっての「真の価値」なのです。
顧客が価値を見出す部分
もしかすると、営業マンの中には、売上が立つことを「ゴール」と捉えているのではないかと思います。
しかしながら、それは購入した顧客にとってはスタートラインになります。
下図において、顧客が商材に価値を見出す部分は、Post-Salesの緑破線で囲われた部分です。
つまり、商材を使用することによって、もたらす効果、そして使用することで実現される姿、に価値を見出すことになります。
「顧客が価値を見出す」部分に訴求することが、バリューベース営業の基本
顧客は、価値に対する対価として、お金を支払います。
逆に言えば、価値が高いと理解されれば、相応の費用を支払います。
すなわち、営業マンは、顧客が感じる「価値」を正確に理解し、提案を行うことができれば、顧客は十分な費用を支払うことに同意するでしょう。
顧客のニーズの捉え方
顕在ニーズ と 潜在ニーズ
「価値」または「バリュー」について述べてまいりました。
本章では、営業目線に立ってお話するため、価値を「ニーズ」という言葉に置き換えて話を進めます。
営業マンが顧客を見た時に、顧客がはっきりと認識し、かつ明文化できるニーズを「顕在ニーズ」、顧客の認識が不明瞭もしくは認知していない隠れたニーズを「潜在ニーズ」と呼びます。
顕在ニーズと潜在ニーズの違いを、しばしば「氷山」に例えることがあります。
「氷山の一角」という言葉があるように、海面に顔を出している部分はごく一部です。
営業の場面においても、商談の場で見えている顧客のニーズは、ごく一部である可能性が高いです。
ただし、潜在ニーズを具体的に捉えることは非常に難しく、少しテクニカルな営業手法を学び、経験を積む必要があります。
ゴールデンサークルで深堀りする
ゴールデン・サークルは有名な概念でありますが、念の為解説します。
ゴールデン・サークルとは、サイモン・シネックが提唱するリーダシップ手法の一種です。
偉大な経営者が、従業員を動かすとき、「Why?」でその必要性を説き、「How」と「What」の順で説明しているという、経験則を理論に落とし込んだものが、ゴールデンサークルです。
そして、サイモン・シネックは「Whyからはじめよ」と口癖のようにいっており、Whyの重要性を強調しています。
この考え方は、欧米では早くも営業手法に普及しており、「Why」が最も重要な部分となります。
つまり、顧客のニーズを正確に捉えるために、「Why」の質問で掘り下げていくことが重要です。
前提となる「顧客の信頼」
一方で、何もなく顧客に「Why?」を聞いていっても、相手にしてもらえないでしょう。
営業マンと顧客の間に、「信頼」がないと情報の深堀りは難しいです。
信頼とは、「きっとこの話は私にとってメリットがあるだろう」「この営業はバリューを提示してくれる」という期待感です。
それがなければ、ただ単に、「迷惑な営業マン」に過ぎないでしょう。
重要なのは、「信頼の構築」(英語では、Credibility Building と言われる)がすべての営業活動の礎になります。
過去に良い実績があり、顧客の信頼を得ている場合
過去に顧客に良い実績を与えている場合、既に顧客の信頼を勝ち得ているため、すぐに本題に入ることができます。
また、前回の商談で購入に至らなかった場合でも、提案内容が優れていた場合、既に顧客の信頼を勝ち得ていることもあります。
顧客への深い洞察(インサイト)をベースに、顧客の信頼を得る場合
初回顧客の場合でも、顧客自身あるいは取り巻く環境を理解しておれば、顧客の信頼を勝ち得ることも可能です。
例えば、顧客の職種、所属企業あるいは市場動向などへ、深い知識とインサイトを持った営業は、初対面でも深い議論を行うことができます。
議論の中で、顧客が潜在的に有する課題やニーズを拾い、有効なアプローチ策や事例を紹介することができれば、顧客は営業を信頼します。
このタイプの「信頼構築」ができる営業マンは、2通りあります。
「(1)業界経験が豊富な営業マン」は、ベテラン営業に多いタイプです。
逆に言うと、10年以上の長きに渡って営業経験した人しか行き着けないでしょう。
なので、年次の若い方は「(2)入念な事前の情報収集&仮説思考の営業マン」への取り組みを推奨します。
情報を事前に収集し、そして同様の案件実績を社内で探し、「サクセスストーリー」を入手します。
同時に、顧客課題を類推し、顧客がいま置かれているであろう状況の仮設を立てます。
(2)については、習慣化することをおすすめします。
繰り返していると、段々と顧客パターンが読めてきて、仮説が大きく外れることは少なってくることでしょう。
顧客に気づきを与える質問話法「SPINセールス」
SPIN話法については、歴史が古いので、営業の方もよくご存じの方もいらっしゃるかと思います。
特徴としては、「S」の質問は、Close Questionでも構いませんが、その他はOpen Questionを心がけることです。
意識として顧客にドンドン喋らせること、が重要です。
特に重要とされているのは「I」の質問、示唆質問 です。
示唆質問は、相手の潜在的なニーズや課題を呼び起こして、顕在化させることが目的です。
顧客自身の口から課題を話すため、顧客自体が潜在的なニーズを強く認識する効果があるとされます。
「課題(P)」ー「方向性(D)」ー「解決策(M)」への共通認識の形成
私の会社では、「PDM」というフレームワークで顧客課題の顕在化と共通認識の形成を行います。
このPDMのフレームワークを、顧客との打ち合わせ前、および、打ち合わせ後に作成します。
打ち合わせ前のPDMは、仮説ベースPDM となります。
Pについては、前項「顧客への深い洞察(インサイト)をベースに、顧客の信頼を得る場合」>>「(2)入念な事前の情報収集&仮説思考の営業マン」 の内容を実施します。
それに対する解決の方向性(D)と解決策(M)を複数通り検討します。
打ち合わせ後のPDMは、事実ベースPDM となります。
打ち合わせ内で収集した情報をもとに、Pをとらえ、それに対する方向性(D)と解決策(M)を提示していきます。
なお、(D)や(M)では、競合ソリューションを含めてもよく、公平さを担保しながら、共通認識の形成を行うとベストです。
顧客の置かれた状況を明示する「4 x 4」マトリクス
質問術や事前準備の手法について、SPINやPDMのフレームワークをお伝えしました。
では、どういう情報が取れるとよいのか。
網羅的であるかを考える上で、4 x 4マトリクスを検討します。
現状(As Is) | 障壁(Obstacles) | 予想される悪い結果(Result) | ありたい姿(To Be) | |
現場視座 | ||||
ビジネス視座 | ||||
社内政治視座 | ||||
顧客個人視座 |
バリューベース営業では、あらゆる視座感を持って、網羅的にソリューションを提案する手法をとります。
そのため、4つの階層の視座感から、現状、課題、やらなかったらどうなるか、ありたい姿、をマッピングしていきます。
ただし、一人の顧客からすべてを網羅的に情報をマッピングすることが難しい場合があります。
たとえば、B2Bビジネスである場合、顧客は企業となるため、意思決定に複数の人が絡むことになります。
この場合、複数の顧客とコンタクトを取る必要があります。
組織の意見を多角的に読み解く「3 x 3」マトリクス
「4 x 4マトリクス」の情報マッピングをする際、複数の顧客とコンタクトをとる場合があります。
なぜならば、顧客の立場により、ニーズが異なる可能性があるためです。
そのため、私は最低限 3 x 3 = 9 Segmentの意見を集約するべきだと、考えています。
一例としては、以下となります。
企画 | 開発 | 調達 | |
VPレベル | |||
部門長 | |||
現場レベル |
同一プロジェクトにおいても、企画する部門、開発する部門、調達する部門、それぞれで異なる目標を持っているため、立場が異なります。
そのため、生じているニーズが様々あります。
このような多種多様なニーズを取り込み、バリューを付加することができれば、顧客が真にやりたいこと(改善したいこと)の実現に近づいていきます。
そして、その対価として、営業マンは商材をアップセル(=単価向上)することができます。
鍵となる「選択と集中」
そのため、一般的にはターゲット企業を絞って、実施していきます。
「8:2」の法則
ある調査機関によると、多くの企業で「8:2の法則」が成立しているといいます。
「8:2の法則」とは、自社の全売上の80%が、全顧客名簿の20%で上がっているというものです。
その一方で、全顧客名簿の80%は、自社の全売上の20%程度に過ぎません。
そのため、顧客ポートフォリオ管理上、売上上位20%にリソースを投入するほうが効率がよく、売上の伸び率も期待できるということです。
選択と集中に関しては、アカウントポテンシャル、SWOT分析、MAP the GAP分析 などがありますが、次回の「戦略的営業(仮題)」にてお伝えしていければと考えています。
まとめ
売上単価の高い営業手法である、「バリューベース営業」。
バリューベース営業では、顧客の潜在的なニーズを洗いざらいにして、本質的なバリューを提示するものです。
そのため、いくつかのフレームワークを駆使しながら、顧客と継続的に対話を重ねる必要があります。
そして、バリューベース営業は、営業だけが喜ぶ話ではなく、真の価値をもたらされた顧客も喜ぶものです。
まさしく「Win-Win」の関係構築であるため、顧客から求められる営業マンになるためには、バリューベース営業が非常に重要となります。